※盛大な言い訳です※
非常に悩んでいた。
当初構想を練っていた話では、とてもじゃないが間に合わない。
短い話にまとめなければ。
そういう時ほどアイデアは枯渇する。
「しなければいけないこと」が「したいこと」の割合を超えた瞬間、生産性が極めて低下する性質だった。
苦悶と共にひねり出した急拵えの話へ不満を抱いたまま、しかし締切は待ってくれないので取り敢えずペンを握る。
人は失敗から学ぶと言うが、赤点⋯⋯もとい新刊落ちをスレスレで回避し続ける人間は常にチキンレーサーなのである。
そう、なんだかんだと本が出てしまうのだ。
而して7月13日のイベントでは、妥協をミルフィーユの如く折り重ねた愛すべき不格好を皿に盛り付けて人様に差し出した。

話を考える時、自分の場合は大抵二通りに分かれる。
ひとつは大まかなストーリーラインが頭の中で一本の映画を観るかのように浮かぶ。
木の中から仏像を掘り出すように描いていくが、すでに形が見えているので大分楽だ。
掘りすぎて欠けた所はちまちまと埋めていく。
ふたつ目に、ただ描きたい始点と終点、見せ場という点が浮かび、それを線で繋いでいく。
用意されたパーツがフィギュアになるように組み立て、パテで隙間を埋めたり、パーツやポーズを改変したりと試行錯誤するが完成形を決めあぐねて中々に苦労する。
『相対する虚像』は後者であるが、なんともぼやけた終点に見せ場も思いつかずただ目の前に置かれた粘土の塊をじっと見つめていた。
それが如実に現れたのがネーム作成期間だった。
過去の作品ではネームが概ね1日程度で完成し、線画などをしている間に見返しては修正を入れていく。
あるいは、大筋は固まっているが決め倦ねている一部を後回しにして描き進めていた。
当然、長い話に伏線や細かな設定などを組み込んでいくには時間が必要だ。
(大掛かりな世界観や舞台設定でなければ考証や資料集めもさして行わないため、時間の掛かる部分の殆どは加筆修正だが)
では短い話にしようという前提で『相対する虚像』はネームにどれほど掛かったのか。
奥付や扉絵は除くものとする。
6月22日3枚
6月24日7枚
6月25日5枚
6月27日11枚+表紙


ネームに4日を費やしていた。描いていない日数も含めれば6日間である。
短くともできる限り充足した中身にしたい気持ちだけが先行し、何も思い浮かばないという様がありありと見て取れた。
結局不満足である。妥協 未来 A BEAUTIFUL STAR
さて、つらつらと書いたがネームさえ終わってしまえば後は消化試合に近い。
如何にして時間を原稿に費やし、作画レベルを上げられるかだ。
当然そんな時間は無かった。初めからレベル制限確定である。もとより上限は低いけれども。
さらに追い打ちのように流行病を発症。7月1日、2日と寝込んだのであった。
(なお完治まで一週間掛かった)
発症前に描き終えていた線画は5枚。
7月3日に作業を再開。残っているページは奥付や扉絵を除き20枚。
それに表紙とデザイン、ポスターとポストカードの入稿、まあまあの山積みである。
締切は7月10日朝9時。
それでも過去のチキンレースが「まあなんとかなるやろ」と言っていた。
結果、「なんとかなれば良いってもんじゃねぇぞ」と暴言を吐く羽目になる。
この後の7月9日早朝4時20分の時点で線画1枚、ベタトーン19枚、扉絵が残っているという惨状。
7月9日の夜から朝まで馬車馬となり、ネームを一部修正し(悪あがき)、朝8時に脱稿したのであった。
多くの方々のご助力と監視のお陰でなんとか形になったが、過去一番に「新刊落としました」の文字が頭を過った。
友人の励ましの言葉を受け取りながらも半ば無下にし、自らの至らなさに忸怩たる思いを抱えていた。
仕事ではない同人誌だからこそ、自ら納得できる作品を出したいのに叶わぬ無力さを嘆くが、こういった所に普段の人格怠惰怠慢が現れるのだなぁと痛感している。
果たして次があるかは分からないが、その時にはもう少しマシな人間になっていたいものだ。
愛すべき不格好を咀嚼し、飲み下しながら。
※盛大な言い訳終わり※
※コメントは最大1000文字、5回まで送信できます